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抱きしめたい

 
二ヶ月に一度くらい、オールナイトカラオケでストレス発散をしあう
オケ友・K田氏(男)。

朝までふたりで歌っててもレパートリーが切れない貴重なこの友人は、
昼も夜も休日もおかまいなしの忙しすぎる職場で
モーレツSEをやっている壊れかけのサラリーマンです。


このあいだ久々に飲みにいったのですが、いつもより深く深くお疲れの様子。
仕事で疲れているときの、あの、疲れと充足が織りなす みっしりしたオーラとは
違うものを感じます。ストンと底の深い、疲弊の表情。

 「どうしたんですか、元気ないですね?」
 (↑K田氏のがだいぶ年上なので、一応私は敬語です)

 「いや、実はちょっと……いいかな、聞いてもらっても」


要約すると。
父親が難病に倒れ、毎週のように地元と東京を行き来している。
仕事はたまる一方で、考えもまとまらず、抑鬱の症状が出てきている。

家は家で、希望的な要素がまったく見あたらない病人の状況に、
母の精神状態はぎりぎり。おかしなことになってきている。

その上、多忙な職場ゆえ、有給をフルに使っている自分への
「無言の圧力」は膨らむばかり。針のむしろとはこのことかと感じる。
ということでした。


 「まあ、でも、仕事があるからまだ救われてるんだよね……。
 もしやることがなかったら、ずっと親のそばにいるだろうし、
 これからのことを想像してしまう。
 ちょっと、それは、きつい。忙しいことは有り難いと思ってるんだ、今は。」


きわめて流暢にするすると彼の口からこぼれでてくる言葉たち。
しかしその奥には、凝縮された「うつろな穴」が広がるばかり。

ただ、あいづちを打って、そうなんですか、それで? と、うながす。

不用意な言葉は、そのうつろな穴に吸い込まれていくだけだろうから、
私にはただ聞いてあげることしかできないのです。


 「正直、つらい。体力も限界。ゴールも見えない。
 でも、俺、長男だし、独身だし、全部、ひとりで、ちゃんと……」


そう言って酒をあおるK田さんを見てて、ふっと思ったんですよね。




抱きしめたいな。




恋愛感情とかフラッときたとか、そんなんじゃないですよ、断じて。あり得ん。

つらいよね、でもがんばってるよね、っていう、言葉にしたら陳腐なことを
真率に、正確に、一瞬で伝えられる手段が欲しかったんです。
その瞬間だけでも、ホッとゆるんだ気持ちにしてあげたかったんです。


でも、私はそうはしなかった。躊躇がありました。

K田さんとは、偶然、失恋の時期が重なって、
まったく噛み合わない未練たらたらの愚痴を勝手に言いあいながら
ふたりで号泣したこともあれば、ゲロ(失礼)の世話をしたこともさせたこともあるのに、
そこで手を伸ばすことはできなかった……。


K田さんが男友達だから? なにかを遠慮した? 王子のことを考えた?
異性の友人には、何かの壁がやっぱりあるんだろうか?


でも、なんだか、それは違う気がする。


その日から、折に触れ、そのことを思い出していましたが、
やっと今日、わかった気がしました。


日本人である私は、抱きしめて伝えることに慣れていないんです。

目の前でうなだれているのがK田さんじゃなくてミドリちゃん(仮)でも、
やっぱり抱きしめる手を引っ込めてしまうでしょう。
「抱きしめる」という行為を、性的な関わりのない人にも軽々となせる
欧米人のような感覚が私の中にはありません。




そこまで考えて、ゲイの友人を思い出しました。

今は彼が東京を離れたので音信が途絶えていますが、
もうね、実によく他人を抱きしめる人だったんですよ。

私が愚痴をこぼしがなら半泣きになっていると、ギュッと肩を抱いてくれました。
 「知性も精神性もないのに、感受性だけ人一倍。
 あんたみたいなのは社会から落伍するサダメよ、くだらない」
そんな毒舌とともに。

性的な要素のない抱擁は、あたたかくて、どこまでも甘えていいような、
少し心が軽くなるような、不思議な安らかさでした。


あの感覚を覚えているから、抱きしめたいと思ったんだろうな。
けれど、やっぱり、天性の資質として
私はまったくスキンシップフレンドリーなタイプじゃないし、
不用意に真似してぎこちなくなるようじゃ、それこそ勘違いされかねない。
そう思ってストップしちゃったんです、きっと。


それでも、抱擁って、便利な技術だと思います。

女友達なんて、それこそ、「あーよしよし、いい子だから、混乱しないで、ね」
って抱きしめてあげたい場面、いっぱいあるもの。

どうやって磨いていいのかは、わかんない技術なんですけども。


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