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ダウン 1101

 
とても平凡な願いの中で生きている。

1分でも早く、王子が家に帰ってきてくれるといい。
上機嫌でいてくれるといい。
料理がじょうずに仕上がるといい。
私の話に笑ってくれるといい。
お風呂がいい加減で湧いて、王子の疲れをほぐしてくれるといい。
物思いのない夜を、手を繋いでふたり眠っていられるといい。

大切な友人たちが、明日も健康であるといい。できることなら幸福であれ。
この本の結末が予想を超えてくれるといい。
明日は少しだけ要領よく仕事ができているといい。
本当は、こんなことだけを考えていられるといい。


ただ日々を生きるためだけに使われる小さな脳みそが
私の幸福のほとんどを左右する。なのに。


秋晴れの空が高く澄んでいることに気づいたとき。
通帳の残高が増えたとき。
風の中に花の香りを嗅ぎ当てたとき。
誰かにやさしく名前を呼ばれたとき。


身体の奥からつきあげてくるもの。
背筋を這い上がってくる悪寒に似た衝動。
「どこか。 どこでもいいから、ここではない、どこかへ」

名前も性別も大切な人々も、私のすべてを洗い流した世界が、
ひどく清潔なもののように思えて、胸が詰まる。


王子に、私の知る人たちすべてに祝福と笑顔を、という思いと、

ひとりでどこか……ここでさえなければどこだっていい、
遠い街へ、遠い国へ、知らない人たちの暮らしの隙間へと、
わずかなお金と時間をぬすむように飛んでいってしまうこととが、

どちらも本当の望みである、のは、どこにいる覚悟も定まらないからだ。


ひとりにして、一緒にいて、もっと負荷をかけて、あてにしないで、
まだ決めてない、生きていたい、私を覚えないで、でも思い出して。


一貫しないバランス曲芸。 私はいつも振り回す。大切な人たちを。


そうして、いつか復讐される。
王子に。仕事に。友人たちに。執着したすべてに。

わかっているのに。


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