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毎朝の祈り

 
6時半くらいに、天窓から降りそそぐ自然光で目が覚める。

顔を洗って着替えたら、じょうろをつかんでサンダルを履く。
植物たちに水をやる。山椒の木。ぱせり。ひまわり。
水滴を受けて、山椒からぷうんと香りが立つ。まだチビのくせに、立派立派。

空模様を見て、新聞をとり、3階の寝室へ。
王子様を起こす。 おはよ。いいお天気よ。起きて。

ふたりでゴミ出し、ついでに手をつないでお散歩。今日はどこまで歩く?
たくさんの人たちと挨拶をする。おはようございます。いいお天気ですね。

帰り道、お豆腐屋さんでできたての豆腐を買う。お散歩終了。
王子はシャワーを浴びて、身支度を始める。
私は豆腐で味噌汁をこさえて、甘い玉子焼きを焼く。今日はベーコン入り。
「ねえ、ネクタイってこれでいい?」 毎朝、必ず聞かれるセリフ。
うん、似合ってるよ。男前、男前。

夜から水に浸しておいた玄米をお鍋で炊く。ふっくら、いい香り。
サラダと、ビタミンたっぷりキウイフルーツも添えて、朝ごはん準備完了。

「あったかいうちに食べにおいで」 1階でヒゲをそっている王子に声をかける。
朝だけはテレビを見ながら食べていい約束だから、今日も元気に怒っている
みのさんを眺めながら、いただきます。

私がお皿を洗っている間に、王子は歯を磨く、髪をセットして荷物を整える、
どんどんよそ行きの、りりしい顔になっていく。
スーツの肩がピンと尖っている。もう気軽に抱きつけない、広い背中。
短いお別れの時間だ。

「いってきます」 「いってらっしゃい。気をつけてね」

急に広くなる家。仕事部屋にこもってPCの電源を入れ、さ、お仕事スタート。
いくつかのメールに返信を打って、そうして。

そうして、少しだけ王子のことを考える。

できたての小さくてかわいらしい家と、優しくておおらかで凡庸な王子とは、
違和感なくぴったりと縒り合わされた、切り離せないふたつ。
ここは、どうしようもなく王子の家だと、いつも、思うから。

多少の居心地悪さを感じながら、私は毎朝、無言で問いかける。
朝食を作り、植物の世話をし、王子と同じものを見ることで、確認する。
私も、そこに混ぜていただけますか?
家庭的なものごとは、少しだけ、私と、この場所とにあるズレを
解消してくれる気がして。

それでもいつか、違和感なくこの空間で呼吸し、食べ、眠ることのできる
ひとが王子の前にあらわれるのかもしれない。

「永遠なるもの」に擬態して平穏な顔をしている日々を、
噛みしめるように大切に味わっておくことが、今の私にできる精一杯なのだと、
忙しい一日がすべりだす前に、いつも、考える。


とても平凡な望みの中で生きているはずの私の、毎朝の祈り。


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