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穂村弘さん

 
穂村弘さんのエッセイが大好きです。

気になる人のおデコに、自分への「好意」と「性欲」が点数表示されたら
いいのにと本気で考えたりとか(「もしもし、運命の人ですか。(メディアファクトリー)」)、

食事の後で女性をホテルに誘うタイミングがわからず、編み出した必殺技が
「とりあえず散歩に誘う」だと得意げに書いたりとか
(「もしもし、運命の人ですか。(メディアファクトリー)」)、

影が薄すぎて、ラブホテルでシャワーから出てきた連れの女性に
「びっくりした、そこにいたのか」と言われてしまったりとか
(「もう、おうちへかえりましょう(小学館)」)、

由美かおるの水着グラビアは国家レベルの暗号を伝えているのだと
妄想したりとか(「にょっ記(文藝春秋)」、

メガネがないと顔がしまらないという理由で、コンタクトレンズのくせに
レンズなしの「フチだけメガネ」をかけていたりとか(「世界音痴(小学館)」)。

そんな40歳。ちょっと不思議ちゃん(歌人、そしてシステム会社総務課長)。

ポエジーあふれる文章でつづられる、
ゆるくて、妄想いっぱいで、くだらなくて、おかしいエッセイの数々は、
何度読んでもしみじみと面白いのです。

こんな僕じゃだめ? って謙虚なそぶりを見せながら、じつはその可愛げや
不思議ちゃん具合も、巧みに計算された色気なんだからタチが悪いの。

「情けない」と「可愛い」のスレスレでね、モテてそうな感じしますもん。

なんだかんだいって、一般企業で課長さんを勤めている如才ないところもあるし、
ホントはぜんぜん生活無能力ダメ詩人じゃないんだもんねえ。
そのあたりの「安全さ」も、冒険嫌いな女心をくすぐります。

キュートで素敵なダメ男、穂村さん。
菓子パンやめられなくてもいいよ、現実が苦手で怠惰で妄想マニアで
インドアな古本オタクでもぜんぜんいいよ、
私は誰よりもあなたの味方でいたい、あなたの女の子っぽさとダメさと
浮世離れした佇まいを守ってあげたいわ。


と、私のように異様なシンパシーを抱く女が5万人くらいいそうなのは、
実はああいう文章を書ける人は、自分にも他人にも厳しいというか、
距離をおいているというか、冷めた目を持った人だと伝わるからでしょう。


ウジウジしているのに、甘えてきてはくれない、そんな距離感。
なんとかしてあげたいと思わせるくせに、冴えた論理性と
非凡なポエジーが、こっちの安っぽい母性本能なんか拒絶する。
悪いやっちゃ、というか、魅力的です。
村上春樹的に、他人を傷つけない文章ですよね。




さてさて。
そんな穂村ラブの私ではありますが。

「現実入門」(光文社)、これにはぶったまげたぜ!


美人編集者サクマさんに初体験エッセイを依頼されたところから始まって、

献血だのモデルルーム見学だの相性占いだのウェディングウェアだの
色気あふれるスポットをふたりで取材してまわり、

原稿では編集サクマ嬢を美人だ優秀だ綺麗かわいいと褒め続け、

あげく最終章ではマジでサクマ嬢と婚約、プロポーズ。がびーん。


ちょっとちょっと。アリなのか、この展開は。


単行本化にあたって、連載時から加筆修正再構成されているそうなので、
これはあれですね、エッセイじゃなくて、穂村さんが運命の人と出会ってから
ゴールするまでをつづった「恋愛私小説」として読むのが正解なのでしょうね。

そうじゃないと、いろいろと腑に落ちないというか、
ふざけんな穂村これセクハラだよ、と思っちゃう描写がいっぱい
ありますもん。


ゴールインした未来から過去を振りかえって構成しなおされた、
エッセイっぽい恋愛私小説。

そうやって読みかえすと、印象的な出会いと、順調な恋愛を経て、
めでたく結ばれた、幸福なカップルの物語です。


どこまで本当なのかわからない、人をくったフィクションなのね。


でも、まるっきりエッセイだと思って読み始めちゃったからなあ。
途中ちょっとおいおいおいおい公私混同だいじょうぶか、これはアリなのか、
いくらなんでも仕事相手の編集さんに向かってこんな妄想はちょっと、と、
ハラハラむかむかしてしまいました。


びっくりしたよもう。


実験的な恋愛小説として、読み直し、納得しました。



しかし『現実入門』ってあなた、じゅうぶん世知辛い大人ですがな。
元システム会社の総務課長さん!



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