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勝手に今年(去年…)の一番: マンガ

 
え~、無計画が祟って年をまたいでしまいましたが、めげずに続けます。

2008年、マンガで印象深かったのは、


 福満しげゆき の、日常を描いた作品群でした。


 『まだ旅立ってもいないのに 』(青林工芸社)
 『僕の小規模な失敗』(青林工芸社)
 『僕の小規模な生活 1』(講談社)
 『僕の小規模な生活 2』(講談社)
 『うちの妻ってどうでしょう?』(双葉社)


うち、2008年に出版になったのは、『僕の小規模な生活 2』と
『うちの妻ってどうでしょう?』でしたが、一貫した内容なので、
カタマリとして紹介しましょう。


内容はですね、作者の、タイトル通り「小規模」としか言いようのない目線で
綴られる、 ちょっと自閉的で愚痴にあふれたノンフィクションマンガです。

ぜひ、上から時系列で読んでいただきたい。


工業高校に通ったり、中退したり、バイトしたり、定時制高校に入り直したり、
バイトに挫折したり、好きな子ができたり、またバイトしてまた辞めたり、
好きな子にストーカー扱いされたり、なんとか思いがかなったり、
結婚したり、妻とケンカしたり・・・。

そんな生活の合間合間に、ぽつぽつとマンガを描きつづけ、
持ち込みつづける福満氏。

些細なことでバイトがイヤになって、ろくに連絡もせず辞めて引きこもる
超・根性なしだってのに、
マンガに関しては、途中で何度かリタイアしかけながらも、
「マンガで身を立てる!」ことにずっとこだわり続け、
そしてついに、『僕の小規模な生活』で『モーニング』の連載を
勝ち取るまでになってゆくのです。

まさに、現代版「まんが道」!


では、あるのだけれど。

この連作マンガは、「あきらめなかったマンガ青年のサクセスストーリー」
としてのみ楽しむものではありません。
「努力、そして成功!」というサワヤカな内容ではない。

三点リーダを多用してしつこく描写される「生まれてすみません」的に
鬱々としたモノローグこそが、現代っ子のリアルを表現していて、
この本の面白さというか、読ませどころなのです。


たとえば、『僕の小規模な失敗』(青林工芸社)から引用。

《…もう学校をやめよう どうしよう… どうしよう…
 どうしよう… 恋愛ゲームにも参加できず… 
 マンガコンクールで相手にされず……
 学歴コースからも脱落しちゃって…》

《失敗だ… 僕は………
 どのスタート地点にすら……立ててないわけだから……
 まだ何もはじまってないわけだ……
 なのに……もう………
 ずいぶん…なんだか…
 もうずいぶん失敗しちゃったような…まあ
 こんな感じで続くのか……………
 …………僕の…》

《なんの期待もせず…
 テレビの電源を入れるだけの人生……
 病人のように…
 …ずっと寝てしまう
 外に出ると人の目が気になる…
 次も載らなかった…》

《…もう自分の頭で何かを考えるのはイヤだ……
 ちょっとでも考えると怖いことしか考えられない…
 人が自分の行動に指示を出してくれるような環境…
 …状況の中に行けば楽になるような気がする…………》


自己実現にあえぐ若きフリーターの内面を吐露したもので、
その内向性と閉塞感にはホント息苦しくなっちゃう。
鬱グルーヴが非常にリアルで、共振して暗くなってきてしまいます。


でもね、決して暗いだけのマンガじゃないんですよ。
みょーにオカシくて、読後感は悪くないのです。

悩める心情とともに、行動そのものもノンフィクションとして
バカ正直に描写されているせいで、「滑稽味」が生まれてしまっている…、
と言えばいいのか。

そういう滑稽味って、どこかで感じたことがあるよなあ……と考えていて、
あっ、と思いついた。


「私小説」だ!


福満マンガは、マンガで田山花袋をやっちゃいました! っていう作品なのです。
出来事ベースの「エッセイ」ではなく、心境小説なんですよ。


どんなに深刻なモノローグに飾られようと、「女弟子の布団に顔を埋める」
っていう行動を素直に書いちゃった時点で、いかんともしがたく田山花袋って
滑稽じゃないですか。


同じように。


同居人がそのカノジョを連れ込んだあと、ゴミ箱をわざわざあさって(!)
使用済みコンドームを発見し、
《なんとなく居づらくなってしまった……ねたみで…》なんて
嫉妬に落ち込む作者ったら。

片思いの女の子が忘れていった鞄を《急いで 中を見ないと!!》
なんてゴソゴソ探って、手帳を思いっきりギラギラした目で
盗みチェックしちゃう作者ったら。

嫉妬や焦燥感の「個人的な深刻さ」が詳述されるほどに、
その行動はどうしようもなく滑稽にうつり、苦笑を誘います。


どこまでが計算された滑稽味で、どこからが天然なのか、
微妙にわからない感がまた、リアルというか、生々しくて、魅力的。


これ、バロメーターになるかもですね。
『僕の小規模な失敗』を読んで本気で息苦しくなっちゃう人は、
ちょっと心が弱ってるかもですよ。


福満しげゆき。
マンガで私小説を描きつづける男。
吾妻ひでをがこの人を褒めてるのも、なんかわかる(笑)。


最近はマンガ生活が安定してきたせいか、妻観察エッセイになってきていますが、
些細なことで成功者への妬みが爆発して苦しむ姿は健在。

シリーズを通底するエレジーと滑稽味を、ぜひ味わってみてください。




    



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