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『悪人』、映画化するんですね

 
吉田修一さんの小説 『悪人』、映画化されるんですね。

文庫化された後に手に取りました。
ここ数ヶ月内に読んだ小説のなかでは、文句なしに一番好きです。

ネタばれにならない程度に(むずかしい…)、感想を。


「保険外交員の女が、福岡県の三瀬峠で殺害された。」
その事実を淡々と告げるところから、物語は始まります。
彼女が殺された理由とは何なのか。
そして、「悪人」とはいったい誰のことなのか。
――というのが非常にザッパクな大筋ですが、犯罪推理小説ではありません。


殺された女。その両親と同僚。
捜査線に浮かび上がる、金持ちのぼんぼん大学生と、女が出会い系サイトで
知り合った土木作業員。そして、彼らを取り巻く親族や友人たち。

群像劇よろしく、ひとりひとりの背景や心情を丁寧に描きつないでいく、
そのひとつひとつの描写の中に、
生活って、働くって、親子って、友人って、セックスって、情って、純愛って、
そして悪人ってなんなんだ!? という問いかけが、
暴力的な密度でギッチリと詰め込まれている、心理小説です。


行間から立ち上るのは、人間の営みをごっちゃに煮しめた、複雑なにおい。

それは、けっして芳香ではないのに、悪臭とばかりも言えなくて、
いたたまれないのに、いとおしい。 いとおしいのに、いとわしい。

私は、よく知っていると思いました。このにおいを。
まみれすぎて麻痺している私に、「忘れたふりをするんじゃないよ、
こんなにおいの中で生きているんだよ、おまえは」と見せてくれる小説でした。


物語の内容についての感想を少し書きますと、

私は、後半の、あのふたりの逃亡劇を、いわゆる純愛だとは思いません。
だけれど、生来独占欲の激しい女と、誰でもいいからすがりたかった男の、
からっぽ同士が演じてしまった衝動的な逃亡ゴッコだとも思わない。

どちらでもなく、また、どちらの要素も含んでいるのでしょうが、
そんな、後付けの動機だの理由だの解説だのは、
今まさに生きている生身の人間には必要がないわけで。

ただ、あのときのふたりを動かした「切実さ」だけは、ふたりにとって
ひりひりするくらい「ほんとうのこと」だったと、そう思います。

人間を揺さぶり、動かし、思いがけない力を与えることができるものは、
当人にさえその「寄って来たるところ」をすべては分析しつくせない、
「切実さ」という化け物だけなのです。いつだって。


善悪を超えて。



   


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