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「行きすぎちゃった」人の味

 
行きすぎちゃった人の話は、どんなジャンルでも味わい深い。

と、あらためて認識した本をご紹介します。


マンガ家中崎タツヤ氏の、『もたない男』(飛鳥新社)です。
「もてない男」じゃないよ。


私は高校時代から中崎氏の『じみへん』を愛読しております。

(『じみへん』面白いよね! という女子は周りに皆無でしたが。。。
吉田戦車も中川いさみも受け入れられてたのに、なんで中崎タツヤはダメだったのだろう)


ということは、中崎マンガを読み始めて、17年くらいか。
年数にするとけっこうなお付き合いになるのに、マンガ家さん本人のことは
何ひとつ知らなくて。
今回、ちょっとした衝撃を受けましたですよ。衝撃というか、驚愕です。


その、「もたない」っぷりに。


タイトルの「もたない」とは、「ものを所有していたくない」「捨てたくてたまらない」
性癖のことです。ええ、もう、これは性癖と呼ばせていただきたい。

中崎センセイの仕事部屋が巻頭のカラーグラビアに載っているのですが、
これがもう、すごい。ほぼ、ものがない。
「ほんとうに、3年半も毎日通っている仕事場?」と、見るものを不安に陥れるほどに。

薄いカバン1個に入れて持ち運んでいる紙、ペン、消しゴム、
定規といった最低限の(最低限すぎる)仕事道具が、
小学校の学級に置いてあるようなフック付きの小さな机に
置かれているだけという。。。

資料やカレンダーや時計やFAXやコピー機といったアイテムもなければ、
カーテン(!)もゴミ箱も冷蔵庫もポットも着替えも、
なぁぁあんもないんですよ!!


あまりのもののなさに、友人から《「不動産屋に内見に案内されたみたいだ」》
などと不気味がられる始末です。いや、ホントにそんな感じ。


本文がまたすごくって、「血眼になって持ち物の無駄を探し、見つけ次第に捨てる」
という性癖の告白が、189ページにわたってえんえんと語られています。

 「もたれる必要がないから椅子の背もたれをノコギリで切って捨てた」
 「ボールペンのインクが減ってくると本体ごと削っていちいち短く工作する」
 「オートバイのフェンダーの意味がわからなくて剥がして捨てた」
 「卒業アルバムは即捨てた」
 「自分の著書も生原稿もぜんぶ焼いた」
 「許されるなら人のものも捨てたい」(オイ!!)

などなど、どんどん常人の範囲を超えた名言が出てくるわ出てくるわ、
いやもう、、、すごいっ!!

上記なんて、ごくごく一部ですからね。
ページをめくるごとに、「こんなもんまで捨てんでも・・・」という実体験が
ざっくざく、無駄な部分を捨てるためなら労力を惜しまない姿勢には
鬼気迫るものを感じます。
いま流行りの「断捨離」なんて、甘い甘い。
第2章にある「本棚」のくだりはとくに、「そこまでやるかっ」と驚倒すること
必至なんで、ぜひご一読をおすすめしたいっ!


しかし、この「捨て魔」の中崎センセイ、物欲がないかというと
そんなこともなく、新しいもの好きでのめりこみやすい一面も書かれています。

よく買って、よく捨てる。

物欲と所有欲は違う、と本人も本書で分析してありますが、
人間という生きものの奇天烈さを感じるというか、
中崎氏の、何も考えてないような考えつめすぎたような独特のギャグと
シンプルな絵柄にどこかマッチしている性癖だなあと思いました。
生き方そのものが手の込んだギャグのよう。


こういう、「突き抜けた人」の話は、「人間の底知れなさ」のようなものの
一端をチラっと垣間見せてくれますね。
驚きの声をあげられるけれど、決して病理や犯罪にまで振り切れてしまって
いないから、安心して笑えるんです。

たぶん誰にでも「人間の底知れなさ」に対する興味ってあって。
だから、猟奇殺人鬼を特集したディアゴスティーニの
「マーダー・ ケースブック」がベストセラーになったりするんだろうなと
思うんですけど、そこまでくるとちょっと人に言えないというか、
眉をひそめられるというか、興味本位にちゃかすと不謹慎というか。
世間の「圧」を感じてしまう。

その点、ちょっと突き抜けた人の話は、ブラックジョークのようなもの。
いろいろと工夫している人たちなので、意外に「使える」アイデアも拾えるし
(中崎センセイにならって、私も読み捨てる文庫本は半分に「割って」ポケットに
入れるようになりました。薄くて軽い♪)、
気楽に笑いながら読み進めつつ、人間のバリエーションの豊富さ、底知れなさ、
不気味さのカケラを味わうこともできて、楽しいんですよね。


唐突に夫婦愛の話なんかも挿入されていて、とっちらかり具合がまた
不思議といい感じです。一読の価値はあり!



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